柿渋染めって聞いたことありますか?
近年の科学技術の目覚ましい進歩により、機能性に優れた衣服が増えてきましたが、近代科学技術が普及する前はどうだったのでしょうか。
今回は、「古くから受け継がれてきている染色技術に目を向けよう」という意味で、【当店で扱っている生地にも使われている柿渋染め】の歴史や特徴を解説します。
柿渋染めとは?
【柿渋染め】とは渋柿の搾汁を発酵・熟成させた【柿渋】という抽出液を用いた染色技術です。
日本では10世紀頃より漆の下塗りとして使用された記録が残されており、 衣類としては平安時代に下級侍や山伏が着用していた「柿衣(かきそ)」が始まりと言われています。
1000年以上前から継承されてきた伝統的な工法なんですね。
柿渋の特徴
柿渋には防腐・防水・防虫の作用があり、最近では抗菌・防臭・消臭・抗ウイルス効果もあることがわかってきています。
古来より日本は紙・木・布など自然の素材で作られた生活用品が多かったため、その多くの消耗や腐敗の防止に役立ってきました。
法隆寺や薬師寺など、伝統のある寺社の建材にも防腐剤として使われているというのでその効果はかなり強力なものであったことがわかります。
衣類においての柿渋染めの最大の特徴は「日毎に色味が増す」点です。
日光や空気に触れる事で柿渋の主な色素成分であるタンニンが年月とともに縮合重合(酸化)し、色味が強く変化していく事から「太陽染め」とも言われています。
化学染色のように日焼けで色が薄れていくのとは反対で、使い込むほどに柿渋茶がより一層味わい深い色になります。
「柿渋染めは生き物」という人もいるくらいで、着るだけではなく育てる楽しみもあるのが最大の魅力です。
柿渋の成分と効果
前述の項目でも少し触れましたが柿渋の成分として代表的なのが【カキタンニン】と呼ばれる高分子ポリフェノールです。
カキタンニンは渋柿に含まれる水溶性の苦み成分で主に防腐・防虫・抗菌・抗ウイルスなどの有用性を発揮します。
タンニンは塗り重ねる事によって皮膜のようなものが形成され固化する性質がありますが、 こちらのタンニンに加えて柿渋には【ペクチン】という複合多糖類も含まれており、このペクチンが強い接着性を発揮して塗布物を丈夫にします。
これらの性質を利用して番傘や漁網など撥水効果を必要とする製品にも多く使われてきました。
現代における用途
以上のような多数の有用な効果が確認された結果、柿渋は布、漆器、紙、綱、家具、建築材など生活に欠かせない様々なものに利用されてきました。
現在では自然由来の原料ということで肌に優しく、地球にも優しい!とSDGsの観点からも再度注目を集めており、 化学物質による弊害をおこさない多機能な塗料として建造物の内装に使用されるなど、身体に優しい性質が認識されるようになってきました。
生活用品では栄養素の高さからお茶や化粧品、医薬品にも使用され、衣類ではシャツやジーンズ、鞄など、世代を問わず様々なジャンルのものに使われています。
調べれば調べるほど身の回りに柿渋を利用したものが多く、自分が知らなかっただけで日本人には馴染みのあるものだったのだと驚きました。
結論:柿渋の素晴らしさを再発見
柿渋染めの歴史やこれまでの製造過程を調べて、伝統として後世に残していけるまでに工法を確立させた人達がすごいなと改めて感じました。
もちろんその工法を今なお受け継いで継続・発展させていっている方々には頭が上がりません。
たくさんの方の努力によって支えられている伝統技術を私たちも「利用する」という形で支えていけたらと思います。
柿渋の驚くべき性質と伝統的な技術への持続的な影響力に本当に感動してしまいました。
参考サイト
・Web柿渋村 柿渋情報総合サイト, https://kakishibu.co/ , 2024.06 閲覧。
・株式会社KOEKI、https://www.koeki-net.com/blog/p1370/、2024.06閲覧。
・鍛治雅信, “かわのはなし(7)”, 東京都立皮革技術センター,https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp//Portals/0/images/shisho/shien/public/186_7.pdf, 2024.06閲覧。
・みつる工芸, https://kakishibuzome.com/kakishibuzome/ ,2024.06閲覧。